ウ…タ…
うた、だ…。唄が聞こえる。
どこかで聞いたような、そんな懐かしい唄。
優しい声。
昔、俺が眠れない時。母さんが唄ってくれた歌に似ている。
心地よい唄。
ずっと聞いて居たい。ずっと…こうして温かい夢を見て居たい。
ハッと目を開ける。視界一杯に光が差し込み。バッツは思わず瞳を歪める。霞んだ瞳から天井が見え、思考が一気に疑問と言う考えに至る。
「(あれ?俺、如何してこんな所に居るんだっけ?」
ボンヤリと瞳に映る天井を、ぼぅっと見つめる。ズキリと痛む頭。
記憶を過去に巻き戻し、バッツは頭を押さえた。
朝、起きた時に身体の怠さを感じた。そして、仲間と一言二言会話をして、そして―――…
「(ああ、俺…倒れたんだ」」
気怠い身体を横に向ける―――「あ、バッツ。目が覚めたのね。良かった…」
そこには優しい笑顔でレナが笑っていた。安心したような表情で、ふぅっと息を漏らしている。
「え、っと…」
意味が分からずに言葉に詰まる。レナは困ったような顔をすると俺の額に手を当てる。
うーん。と、首を傾げるとふわりと笑った。
「良かった。熱、下がったみたいね」
ひんやりとして冷たいレナの手に、心地よい安心を覚えた。まだ熱っぽさがあるのか、吐くと息が熱をもっている。
瞳を閉じれば、額から全身を水が浸透する不思議な感覚。
これは、何だろう?
疑問がよぎるが、思考が定まらない。
「(ああ、冷たくて気持ちいいな…」」
虚ろな瞳で彼女を見ると「大丈夫?」と言葉が返ってくる。
返事をする気力もないので「ああ…」と小さく答えた。
優しく撫でられる額がするりと離れる―――と、彼女の手を無意識に掴んだ。行き成りの行動に、驚いたのか。レナの手が強張るが、困ったかのように笑った。
如何して…だろう?心なしかレナの顔が赤い?
「もう少し、だけ・・このまま…・・・」
「バッツ?」
困惑したレナが心配そうに俺の顔を覗き込むが、言葉を全て言い終わらないうちに眠気の方が勝ってしまい。俺は再び眠りについた。
もう少し…
もう少しだけ、このままでいて欲しい。
虚ろな瞳が安らかに閉じられ、小さな寝息をたてる。
規則正しい呼吸が聞こえレナは青年の頭を優しく何度も撫でた。
ウ…タ…
うた、だ…。唄が聞こえる。
どこかで聞いたような、そんな懐かしい唄。
優しい声。
懐かしくて・・・
―――ああ、そうだ。
俺、レナを見て思い出したよ。母さんの事…
俺が眠れない時。いつも優しく俺の頭を撫でて、唄を歌ってくれた。
流れる水のように優しくて、海のように広い慈愛に満ちていて…
こんな事、恥ずかしくて仲間には言えないけど
でも、
この優しさを、ずっと感じて居たい…
ずっと…
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