他愛もない事で胸がドキドキしたり。ズキズキと痛んだり。
思い通りにならないもどかしさ…
如何してだろう?何故なのだろう?
分からない無垢な心。何も知らない未知の思い。
今感じているこの“おもい”を、何と呼ぼう―――…
恋を知らなかったとある道具屋のカウンターの棚にひっそりと並べられた小さなリング。
きらりと光る小さな石の色を見つめ、レナは思わず立ち止まり“それ”に見入ってしまった。
気づいた店主が「君にはこっちの方が似合うよ」と、見ていたリングより高級そうなリングを勧めるが、思わず苦笑いをして、レナは首を横に振った。
それを見た主人は、やんわりと微笑む。
「随分とこの指輪を見て嬉しそうにしていたけど…欲しいのかい?」
店主はにっこりとレナに微笑んで指輪を差し出すが、如何答えて良いものだろうと、レナは返答に困った。
別に指輪が欲しいと言うわけではなかった。
ただ、指輪についている石を見た瞬間。如何してか。瞬時に思い浮かんだ人物が居た。本当にただ、それだけだった。
「その…あ、あの人の色に…似ている…なー…って……」
最後の言葉は、果たして言葉になっていただろうか。今となっては確かめる術がない。
真っ赤な顔を見られる事がとても恥ずかしく、レナは思わず俯いてしまう。
そんなレナを嬉しそうに見つめると、納得したかのように店主はうんうんと頷く。
「ふむふむ。あんたみたいな可愛い子に想われるなんてねー。その男が羨ましいなー」
「え?」
思わぬ言葉に思わずレナは、金魚のように口をパクパクさせる。如何してそれが“男”だと分かったのかと言う眼差しで、店主を見つめた。
満足げにレナを見つめた道具屋の店主が、今度は含んだ笑みを漏らす。こんな風にからかう様に笑う人を、何処かで見たような…と、そんな言葉がレナの脳裏を過った。
紫桜色の髪。私と同じペンダントを持った―――…と、次の言葉でそれがすべて消される。
「あんたのその顔。よほど好きなんだね。その人が…」
「っ―――!?」
曖昧な気持ち―――あまりに知らなすぎる思い。
気が付かなかった思いが、想いが、数多の”おもい”が、一気に心の中で膨れ上がって…
す…き
わたし…すき・・・なの?
えっ。ええええええっ!だっ、だって・・・
思い浮かんだ人物の顔を掻き消そうとするが、それが出来ない。
再び熱が、瞬時に身体の全身をめぐる。
そして我に返る。もしかして自分は、見ず知らずの人にとんでもない事を暴露してしまっているのではないかと…
「あ、あの。その…だから…っっ~~…」
真っ赤な顔。今にも湯気が出そうなくらいに火照っている全身。
今のこんな姿を“あの人”だけには見られたくない。良くは分からないが絶対の、絶対に…だ。
ああああっ。もう、如何してこんな事になってしまったのだろう。
恥ずかしい。穴があったら入りたい。
こんな気持ちになる事なんて、今までになかったのに。
分からないのに、苦しくて、切なくて…
思い通りにならない心。ふつふつとわき上がる感情。
―――私、如何しちゃったんだろう。
如何する事も出来ない胸の高鳴りと、身体の火照り。
何も知らなかった私。知ろうとしなかった私。
ああ…でも、分かった事がある。
きっと私は、貴女に―――…
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