ventus&aqua~指先に込められた想い~先ほどから感じる視線。
分かっている、気づいている。
頬杖を付きながらも、真っ直ぐに向けられている蒼の瞳。
本で表情までは見えないけれど、痛い位にその視線がそそがれているのは、分かる。
そんな彼が気になってしまい。本の内容なんて殆ど頭に入っていない。
ついついよそ見をして手元にまで気を配れず。本のページで指先を切ってしまった。
「いっつ・・・」
レナは痛みに思わず顔を歪める。
指の先端から薄らと滲み出る真っ赤な血は、どんな赤よりも紅だった。
「あぁ、指、切ったの?」
バッツがレナの目の前へ歩を進め片膝をつくと、細く長い手を取る。
突然の事でレナは彼がとろうとしている行動が読めない。否。彼がとる行動は、いつもよく分からないのだが…
知らない者から見ればその光景は、おとぎ話に出てくる姫と王子様のようだが、レナは彼を知っている。彼と言う人を良く知っている。彼は王子様なのではない。むしろ自分を困らせるずるい人。
だから、何がしたいのか問おうとした。
「バ―――、」
問おうとして凍りついた。何せ指先に感じたのは、彼の柔らかな唇。
ぺろりと指の先端を舐められ口に含む。
頭が真っ白になった。しかし彼はそれが当然とばかりに、自分の顔を見つめるものだから、何も言えなくなる。
ぱくぱくと金魚のように口を開け閉めして、息を呑んだ。
「っ、―――」
指先から伝わる鈍い痛み。そして、言い知れぬ感触―――ピクリと肩が跳ねる。
指先をざらついた舌が捕え、時折歯が当たる。ちゅっと音を立てて、何度も何度も…念入りに絡められる舌先。
ぞわぞわとした感覚に寒気が走り。同時に、いつも彼に与えられる感覚を思い出す。
「も、もももももっもういいわ」
思わぬ感覚に指を引き離そうとするが、グッと身体を密着されてしまい。失敗に終わる。
それを分かっているのか、わざとらしく音を立てさらに舌先を指に絡め取る。
「んんっ…」
真っ赤な顔で妙に慌てている自分の顔。一体、彼から見た私はどう映っていたのだろう。
唇を離され、名残惜しいような…そんな恥ずかしい事を一瞬考えてしまった私は、さらに顔を赤くする。きっと耳まで赤いだろう。
重ねられた手はそのままに、彼は蒼い目を丸くして、わざと聞こえるようにくすりと笑った。
「レナって、案外…」
そう言って、続きを言う事無く言葉を止めた。途中で止められてしまった方が何と言うか、後味が悪いというか……恥ずかしいと言うか。
きっと彼は、分かっていてそれを言ったのだろう。
わざわざ自分が反応する事を知っていて、わざと含んだ言い方を言ったのだろう。
ずるいわ
本当にずるい…
何も言えない私を、やっぱり蒼い目は捕えて離さない。
頬を優しく撫でられ、目を閉じる――――けど、キスが落ちてきたのは瞼で…「―――え?」と、思わず私は情けない声を漏らす。
それを見ていた彼が耳元で「ほらね。やっぱり」と言ったものだから、どんな赤よりも朱い顔を私は勢いよく覆い隠した。
指先に感じた感触は、熱を持っているかのようにあつい―――…
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