風は留まる事無く吹き抜ける。
一つの場所に留まらないのが風―――。
自由で、奔放で、束縛されない。囚われない心…
けれども。私の心はこんなにも貴方に囚われてしまっている。呪縛と言う鎖に絡め捕られてしまっている。
この心も、想いも、私だけのもの。
誰にもそれを変える事は出来ない。止める事は出来ない。私だけの―――…
仲間と言うのには近くもない。恋人と言うには程遠い…そんな関係。
だからと言って、特別になりたいわけではない。だって彼は“それ”を望まないから。「本気にならないで」と、そう言われたから。
「それでも良い」と、如何して私はあの時。答えてしまったのだろう…
ventus&aqua~毒に侵される蝶~しっとりと背中に滲む汗と体温と言う温もり。微かに残る互いの香り。
薄らと瞼を閉じれば、心地よい気怠さ。
堕ちていく―――…
―――暗い闇へと私は何処までも堕ちていく。
何処までも、何処までも。果てしない永遠の闇。
どうせ堕ちるのなら、奈落の底がいい。そこで私は甘い夢を見る。
現実と言う世界から逃げて、誘惑と言う甘美なまでの甘い蜜を吸い続ける蝶になる夢。
ああ。今、この瞬間こそがそうなのだろう。今この瞬間こそが、私の罪と罰。
蜘蛛の巣に掛かった逃れる事の出来ない蝶は、蜘蛛の毒に犯され感覚すらマヒしてしまい。やがて蜘蛛に喰われる。
それは悲しい。だが、弱肉強食と言う一つの世界。他人の目から見れば、悲しい蝶。可哀想な蝶。
しかし、それは果たして可哀想な事なのだろうか?悲しい事なのだろうか?
苦しまずに死ねるという恐ろしいが、何処か美しいと思ってしまう。そんな感覚に囚われてしまっている自分は、やはり蜘蛛の毒にでも侵されてしまったのだろうか?
微かに差し込む光に、女―――レナは目を細める。気怠い身体を無理やり起こし、深い溜息を吐いた。
本当は分かっている。頭では理解できている。
彼の想いはここにはない。だからと言って、何処にあるとも思えない。
浅はかで、馬鹿げていて、そして愚かだ。
それでも自分は彼に身を委ねる。
この想いが彼に届く事は無いと知っていても、蒼い瞳とひと時の快楽に身を任せてしまう。
終わりにしたい。終われない。終わらせたい。終わらせられない。
矛盾した思いが交差し、混ざり合っている。初めは純粋な“想い”と言う一本の糸だった筈だ。
癖のある茶色い髪を、白く長い手が静かに撫でる。
空を思わせる瞳は、今は開くことなく閉じられていたが、不意に腕を掴まれる。
撫でられていた手は絡め取られ、ベッドが沈む―――。
息が出来ない位に求められる口づけ。荒くなる呼吸。
幾度となく彼に触れられた肌。何度も肌を合わせても、眩暈を起こし涙が溢れ出る。
風は留まらない。
―――分かっている、わ。
「(そんな事。誰よりも自分が、分かっているわ…)」
レナはゆるりと瞳を閉じ、与えられる快楽に身を委ねた。
腕を大きな背に回し、抵抗の証とばかりに爪を立てる。
互いに感じている熱―――この瞬間だけは、私だけのなの
無邪気で残酷な笑顔も、吸い寄せられる程美しい蒼い瞳も、全部私だけの
今だけは、私だけの風―――
PR
COMMENT